ある日突然現場監督がいなくなる
現場監督が自分の現場をほうり出していきなりいなくなってしまう、という状況を目の当たりにしたことがあります。本当にこんなことがあるんだ、と驚きました。
バックレたのは会社の上司にあたる人で50歳代の男性でした。墨出しを数回お手伝いしたことがある程度で、あまり一緒に仕事をしたことはありませんでしたが、温厚で人あたりのいいおじさんという印象でした。
ある日のこと、いつものように眠そうな先輩がめんどくさそうに「○○さんいなくなったって」と言いました。最初話をのみ込めない私は「いなくなったってどういうことですか?」と間抜けな感じで問いかけました。
先輩は「うんワシもよく分からんのやけどいなくなったらしい」と眠そうな目をこちらに向けながら返してきます。いやだから、もう少し状況が分かるように教えてくれよ、と私は表情で訴えました。すると「ここ3日ほど現場に来てなくて、連絡もつかんらしい」とのこと。
3日目でやっと分かるのか
と、その頃新人だった私は軽い衝撃を受けたことを覚えています。
「ワシが掛け持ちでその現場見ることになったんやて」なんだかスネた感じの声で先輩は言いました。そこでその話は終了し、話題はスナックのお姉ちゃんの話題に移っていきます。そのあっさりとした扱いに拍子抜けし、ちょっとまて、そのいなくなった人のことはどうするんだ?との疑問はありましたが、どうやらそのままほおっておくらしい。先輩もあまり興味無さそうでした。その軽くスル―して現場を進めていく、という姿勢にはプロフェッショナルさを感じました。
そっかあ先輩も大変だな、と他人事のように思っていると「君も大変になるかもしれんが頼むな」とのこと。ここにきてようやく事態が飲み込めた私は、温厚なその上司の顔を思い浮かべ、その隠された本質を見たような気がして複雑な心境になりました。
いったいどこまでだんどりしてるか分からない
まあそれからその現場は大変だったな、と。
現場は鉄骨造3階建てでワンルーム12戸の集合住宅でした。鉄骨建方、各階の床コン打ちが終わって、外壁のALC建込みが半分くらい進んでいる状況が残されていました。
どこまでだんどりしているか分からないし、どこまで業者・施主・設計士と打合せしてるかも分からない。そもそもどの業者と話しているんだ、という所から始めないといけない事態。施工図は書いてあるのか?業者の図面はチェックしているのか?など現場の状況が全く見えない。私はまだ新人でお手伝い状態だったのでそうでもありませんでしたが、先輩はさぞや大変だったことでしょう。
現場はトラブルが起きることが日常の日々が続きました。
サッシ屋がなんか叫んでいるぞ?どうやらサッシが開口部に納まらないらしいとか。
設備屋がなんか叫んでいるぞ?どうやらユニットバスが墨に納まらないらしいとか。
タイル屋がなんか叫んでいるぞ?どうやら外壁のタイルが割れていないらしいとか。
なんだか知らない建材が現場に搬入されているけどこれはなんだ?とか。
ずーとザワザワしているというかピリピリしているというか、現場の中にいて全く落ち着けない日々を過ごしてましたね。いつ職人から何を言われるか、ビクビクしてもいました。最後、外溝工事になった時も、どうやら駐車場の勾配が取れていないということが発覚していました。もううんざりですね。先輩がそのトラブルをどう処理したかは今になっては覚えていません。
完成検査間近になってまーた問題発生です。工事写真がない。基礎配筋まではポツポツありましたが(それでも全く足りないが)その後は全くなし。現場事務所内や会社の机をひっくり返して出てきたフィルムを全て確認してもない。
これはちょっとマズいんじゃないか?という雰囲気に一瞬なりましたが、
まあないものはしょうがねえな
という結論に落ち着きました。建築検査の当日は、困惑・憔悴・恐縮の表情で、あくまで被害者なんですうの立場をアピールしなんとか乗り切りました。
現場監督がいやになったら逃げてもいいらしい
そのバックレた人の足取りは、建物完成後数カ月たって分かりました。なんと会社からほど近い同業の会社で現場監督をしていまいた!なんということでしょう。もうちょっと遠くに行っとけよ、とあきれましたが。
どうやら何事もなかったように元気で働いているらしい。理不尽さを感じるとともに人のたくましさを感じ、リアルな社会の面白さを垣間見たような気がしました。
教科書的にはバツだけど、人間社会的にはアリなことはいっぱいある、ということを知った初めてのケースだったかもしれません。当事者は大変だったけどね。私は下っ端だったので詳しい事情は結局分からずじまいでしたが。
どうやら現場監督はいやになったら逃げてもいいらしいし、後はなんとかなるらしいので追い詰められている人がいたら是非参考にしてみてください。
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