映画の中で建築現場のシーンが出てくると、どこかにつっこむべき箇所はないか?と目を皿のようにしてアラ探しをする自分がいます。ヤな奴です。映画を作ったコイツら建築の知識ねえな、とスケールの小さい優越感にひたるためだったりします。
今回取り上げるのは『マトリックス』です。
もう説明不要のSFアクションの傑作です。初見は映画館でした。暗闇の映画館の大スクリーンに映し出される、斬新な映像、洗練されたアクション、圧倒的な世界観。うおおお!と立ち上がって叫びたくなるような興奮で血湧き肉踊りました。
でも、ひとつひとつの部分はそう新しいものではありません。カンフーアクション・ワイヤーアクションは香港映画を見慣れた者には、さほどスピードもテクニックも驚くものではありません。世界観にしても、日本のアニメ、AKIRAや攻殻機動隊を経験済みの者には、あーこういう世界観ね知ってる知ってる、と上から目線にもなったりします。
しかし、それぞれの部分の組み合わせ方、見せ方が圧倒的にすごい。まるで、使っている部品の技術はたいしたことはないが、そのパッケージ力、デザイン力で世界中で売れまくっているiPhoneみたいですね。
もっともっと語りたいところですが、映画全体の話はここまでにしましょう。
現場の話です。といってもこの映画には建築現場のシーンは出てきません。その代わり、建築のことをよく考慮しているなあ、というシーンがあります。
映画の後半、囚われの身となったモーフィアスを救出するために、ネオとトリニティが近代的なオフィルビルにカチ込むシーン。ありったけの拳銃・マシンガンを身に付け、バッグに詰め込み、ビルの1階のフロアで大勢の警備員との大立ち回り。
スローモーションとワイヤーアクションを組み合わせ、流れるサントラもすばらしく相乗効果となった名シーンです。お互いにガンガン撃ち合うので建物がドンドン壊れていくわけですが、その壊れ方の芸が細かい。
フロアにある柱は大理石張り仕上げとなっています。その壊れ方が現実の建物とそっくりなのです。もうこれは超感動です。鉄筋コンクリート造の柱に大理石をおそらく乾式工法で固定している、という設定なんでしょう。
弾が当たるとまず大理石の破片が吹っ飛びます。大理石の色は黒なのですが、吹っ飛んだ破片やまだ壁に付いている大理石の断面も黒い!ハリウッド業界では当たり前なのかもしれませんが。普通こういうものは発泡スチロールで作ってあって、爆発すると白い断面が見えたりして興ざめするのが当たり前だったりします。
で、どんどん撃っていくとその大理石が塊ごとごぼっと柱から外れる。そしてむきだしのコンクリートの地肌が見えてくる。で、更に撃ち合いが続くと、柱の表面のコンクリートが徐々に吹っ飛ばされていって、中から鉄筋らしきものが出てくる!
もうね、この細部までこだわる姿はすごいの一言。
でも、そこまで作り込む必要があるのかなあ、とも思いました。動きの多いシーンですし、一般の観客にとっては、柱の仕上げの構造なんてものには興味はないでしょうし。しかし、そこまでやりきることで、リアリティのあるシーンとなり、観客を映画に引き込むことができるのでしょう。
細部へのこだわり、ということで思い出されるのは我らが日本、黒澤明監督。『赤ひげ』では薬棚の中に本物の薬を入れておく。その引き出しは内部にまで漆を塗る。『羅生門』では「延暦十七年」と彫られた門の瓦を4000枚も焼く、とか。細部をおろそかにしない作り込みは、普通の人には意識はされないでしょうがクオリティの高さは直感的に伝わるものなのでしょう。
モノ作りにはそんな姿勢が大切だよなあと思います。でも、仕事というものは完ぺき主義に囚われずに、7~8割の完成度でとりあえず仕上げてしまうことが大事、ということもよく聞きます。結局どっちなんでしょうか。多分どっちも大切なんだと思います。要はバランスが重要なのでしょう、なんとなくですが。
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