現場の仕事をしていた頃、現場施工について書かれた本でいいのがないかな、といろいろ探していました。実務をこなしているだけでは、いまいち現場の全体像が掴めないなと感じていて。
そんな訳で、時間があれば図書館や本屋やネットでかたっぱしから施工関連本をあさっていたものです。周りの人達にも何かおすすめがないか聞いてみたりもして。そうやって探していた中でとりあえず一番分かりやすいかな、と思ったのがこの本でした。
現場技術者が教える「施工」の本<躯体編・仕上編>
この本をおすすめする理由としてはまず、実用的であること。簡単すぎずで難解すぎずちょうどいいあんばいの内容にまとまっています。理論的になりすぎて現場から乖離してしまった結果難解になってしまい、どこの何が重要なのかさっぱり分からんわ、ということがない。
かといって、内容が薄いわけではなく、建築施工の現場に従事する者にとっては実務に耐えうる十分な情報量があります。そのバランスが良くとれている本だと思います。さすが「現場技術者が教える」とうたっているだけありますね。
次に、建築工事全体をカバーしていること。この一冊で(実際には上下二冊だけど)建築工事全体を網羅していること。この一冊にザッと目を通せば建築工事の全体像を掴むことができ、ある程度ことたります。この”一冊であること”が重要です。施工関連本を探すと、工種・工程ごとに分かれた分厚い本がどっと見つかります。この時点で手に取る気力がなえてしまいますよね。こんなたくさん見なきゃいけないのかよ、と思って。
それぞれの工程ごとに詳しく知りたい時にはいいのでしょうが、全体像をザッと掴みたい時には非常に不便なものです。この本はその点で優れています。着工から竣工まで一冊で(実際には上下二冊だけど)確認することができます。もっと詳しく知りたい時の参考図書も多く紹介されていますし。
そして、分かりやすいこと。これは超重要ですね。写真やイラストが多くあり、見やすく分かりやすい。本の中の写真やイラストの部分だけをザッと目で追っていくだけで、内容がなんとなくつかめたりします。
建築現場のことを文字で長々と説明させてもさっぱり理解できないので、絵(図解)は重要です。実際の仕事をしていく中で、建築の現場では絵を使う機会が多いんだなと思いました。教えてもらう時にも、相手に説明する時でも。その点でもこの本はいいかなと。
最後に、本のサイズが手頃です。大きくもなく小さくもなく、厚すぎず薄すぎず、でいい感じです。本のサイズって重要じゃないですか?少なくとも私的には本を買うにあたっての条件で、けっこう重視します。建築系の本ってデカいものが多いですよね。ビジュアルにこだわろうとするといきおいサイズが大きくなるのは分からないでもないですが。
見栄えを良くするために不必要にデカくしてないか?
思われる本も多い。デカいと机の上でひろげるにも、持ち運ぶのにも、本棚にしまうのにも支障がでます。で結果、目の届かないどこかに行ってしまって、見なくなってしまう。その点この本は、手になじむちょうどいい大きさと厚さだったりします。この本がベストという訳ではないですが、施工本を選ぶ選択肢には入れておいて損はないのではないかと。
これから建築施工の実務に就こうとしている人には、現場とは何をする所なんだ?という疑問にこの本は答えてくれます。また、工事の着工から竣工まで一通りのサイクルを経験した新人さんにとっては「あの作業はこういうことだったのか」という新しい気付きや発見があると思います。さらに、ある程度現場での経験を積んだ方にも、改めて基本を確認するためには役立つ本ではないでしょうか。
その他、施工現場に必携な本として有名なのは「公共建築工事標準仕様書 建築工事編」とか「建築工事標準仕様書・同解説」などがあります。
まあたいていの現場事務所には置いてありますよね。例にもれず私の最初の現場の事務所にもありました。この本はなんだろうなと手に取ってみると、文字や数字や単位がみっちりと書かれている。「建築の素人はおことわりやで」の雰囲気全開の本でした。
そんなぶ厚い本をパラパラとめくりながら私は先輩に「こんな数字だらけの本現場で使うんですか?いろいろと基準が書いてありますけど、実際の現場は違ったりしますよね?読んでいると眠くなってきそうですね」と、問いかけました。
すると、年中眠そうでボーっとしている先輩が、この時ばかりはほんの少しシャッキリしたように見え、こう言いました。「その本は読んで理解したり、覚えたりするもんではないよ。辞書のようにつかうもんなんやで。建築は100%完全には出来上がらない。必ずズレたり傾いたり曲がったりする。そんな時に施工の誤差の許容範囲はどれくらいなのかを知っていることは大切だよ」
おお何かいいことを聞いた気がする、普段ボーっとしているようでも言う時は言うじゃないか、と当時の私は少々関心したものです。
ま、その先輩がその本を手に取ることは金輪際ありませんでしがたね。
私の知らない所で見ていたのかもしれません。私の話はそれくらいにして、そのような基本的で重要な本は会社で買ってもらえるでしょうから、自分で買う必要はなかったりします。という訳で自分で買うならこの2冊をおすすめします。
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