入社して初めての現場は、3階建てのマンションでした。マンション、て言うとセレブな響きですが、普通の鉄骨造りの集合住宅です。
仕上げの段階に入っていて足場はなく、外観が見えていました。朝も早くから数多くの職人さんがわらわらと現場内を動き回っていて、活気のある場所でした。
おー、工事現場だなあ、というのが第一印象。へー、ここで何するんだろ?という不安げな気持ちだったのを憶えてますね。「現場監督見習い」がその当時の私の肩書。その時点では「現場監督」なる言葉さえも知りませんでしたが。
その現場を担当している先輩に連れられて、建物内外を見てまわることが最初の仕事でした。
ではここで、現場監督の仕事とは何か?を説明したいと。「現場監督」は一見すると「映画監督」的なステータスの高い響きをしてますが、実態はまるで違います。
様々な物事が集中するポジションですが、頂点ではなく限りなく底辺だったりします。
現場監督は現場で型枠を組んだり、窓を取り付けたりというような実際の建設作業はしません。「建物が設計図通りに、予算内で、工期に間に合わせて、出来あがるよう管理する人」ですかね。
「管理」ってあいまいな言葉なので分かり難いですが。業務範囲は会社の規模や建物の大きさによって変わってきます。
私が実際に経験をした業務でいうと、以下の10項目でしょうか。
①建築予定地の測量
敷地の寸法や地面の高低などを専用の機器を使って調べます。
測量結果をもとに建物の位置や高さを決定します。この設定は間違えると後々非常に痛い目に合うので、慎重にも慎重に検討する。
でも失敗することが多い。
②積算をする
設計図をもとに建物をひとつひとつのパーツに分解し、必要な建設資材の量をひろい出します。
この建物を建設するにはどれくらいお金がかかるのか?を算出するわけです。で、これが非常に地味でめんどくさい作業だったりします。
③施工図の作成
設計図を基に施工図と呼ばれる工事用の詳細な図面を書く。
施工の各段階で必要になるものです。例えば、杭工事用、基礎工事用、躯体工事用、内装工事用などなどいろんな種類のものがあります。新入社員のような初心者には全く出来るものではなかったりします。
今はパソコンでCADソフトを使って書くのが一般的。
一昔前CADソフトがちょー高かった時(なんと100万円以上してた!)は手書きをしていました。時間がかかるし、修正がちょー大変でしたね。
④工事工程をたてる。安全管理もたてる、かも
建物の完成に向けたスケジュールを決めていく。
いつどのような工事をするか?それにはどんな会社からどれくらい人間を入れないといけないのか?などを考えます。営業がむちゃな納期を約束してきた場合は、現場が鉄火場になることも多々ありました。
「クリティカルパス」を意識することが重要ですね。ま、そのように一生懸命たてた工程ですが、工程通り進むことはまずありません。
また、安全管理計画とは、工事が安全に進むようにあれこれと対策を立てること。現場の周りを囲うのはどういうやり方にしようか、工事車両の出入り口はどんなゲートにした方がいいのか、建物を囲う足場はどのようにしたらいいのか、などなど。
使えるお金と安全対策をしなかった時のリスクを天秤にかけた上で、微妙な判断を要求されたりします。
⑤下請業者との打合せ、見積もり、発注
「下請業者」という言葉はあまりいいものではないので、使わないようにしよう!などと会社で決めたこともありましたが、現場ではずーっと「下請け」と呼んでいました。
ちなみに現場監督側は「元請け」です。
下請業者と工事の内容と金額について交渉、契約します。見積りをするには設計図から必要な項目の数量を算出しなければいけません。本来ならば元請けの仕事ですが、そんな暇はないので下請け業者にやってもらいます。
で、気合と勢いで値切り交渉をします。
業者も分かっているので、最初に出してくる見積金額はべらぼうなもの。そんなんだったら、最初から適正な金額を基に調整をすればいいのになあ、とは常々思ってたりしてました。
それでお互いに納得した所で契約成立。しかし書面での契約というめんどくさいことはせず、たいてい口約束だ。
で、のちのちたいていもめる。
言うた言わんはもはやお約束の伝統芸。
⑥工事の段取り
ようやく着工。
④で立てた工程をもとに日々現場に入る職人の手配、段取りをします。
着工時には「地鎮祭」というお祓いの儀式があったりします。そのためのテントを張る仕事も現場監督のお仕事。
このころには敷地内に「現場事務所」が設置されます。みなさんおなじみのプレハブ小屋。なんとも言えないみすぼらさが特徴ですね。環境はかなり劣悪で、夏は猛烈に暑く、冬は強烈に寒い。しかし、現場で働く者にとってはなくてはならないオアシス的存在だったりもします。
2階建てだと、1階が現場の職人たちの休憩所&道具置場、2階が現場監督のデスクワークの場所、という感じでしょうか。現場監督は2階で、ホワイトボードをにらんで工程を検討したり、業者と打ち合わせをしたり、電話をしたり、図面を書いたりしている。
冷蔵庫内でビールを冷やして昼間から飲んでいる猛者の現場監督もいましたね。曰く、
「飲まなきゃこんな仕事やってられねえんだよっ!」
らしい。
そのようなデスクワークも重要ですが、現場監督なのでやはり現場での仕事が多いですね。
⑦墨出しをする
言葉で説明するのは難しいですが、「建物や壁の位置、各設備の据え付け位置などを実際に床や壁に書いたりして、作業者に指示をしていく」ということでしょうか。
自分で言っていてなんだか分かりにくい。現場作業のメインとなる仕事ですね。
その他には「墨出し」の親戚のような作業の「レベル出し」というのもあります。建築において「高さを調べる」や「水平な基準を示す」ということは非常に重要。基本中の基本だったりします。
杭はどのくらいの深さまで打ち込むのか、床コンクリートの仕上がりの高さはどこまでなのか、窓は床からどれくらいの高さに据え付けるのか、そりゃもう現場では常に高さ、水平が必要となります。
とにかくひとつ建物が完成するまでには、気が遠くなるほど「レベル出し」の作業が待ち受けてますね。
もう飽き飽きですわ。
⑧設計士、施主(建物を建てるお金を出す人)との打合せ
エラソーな人たちとのめんどくさい打合せ。
施主がエラソーなのはまだ分かるけど、設計士ってなんであんなにエラソーなんだ?
建物の色んな部分の色を決めたり、使う資材を決めたりするのにお伺いを立てる必要があるため、定期的にやるもの。
設計図に書きこんでいる部分が少ない時、また到底納まらない図面になっている時など、ここはどうするのですか?と設計士に質問したりします。実際、そのように聞いても設計士からきちんとした答えが返ってくることは稀です(分からないから書いていないし、つじつまが合わないわけだからね)。
よって、こちらから「こうしますか?」と提案して承認を受ける流れにもっていく必要があります。そうしないと設計士からとんでもない答えが返ってきて、それを実行しないといけないはめになります。
⑨トラブル処理
工程通りに進んでないけどどうするか?
現場にいる職人同士がなんだかもめてるけど?
となりに住む人がうるせえぞ!とどなりこんできたけど?
あれ?図面とは違うようにできてしまっているけど?
などなど、建築の現場は毎日毎日毎日トラブルが起きます。これをどうやってリカバリーするのか?ここいらへんが現場監督の腕の見せ所だったりします。
ぼやぼや悩んでいる暇はありません。とくかく判断して実行する。どのような形でも現場を進めていかなければなりません。
⑩アフターメンテ
建物が完成して引き渡しが終わると、ホッと一息ですわ。
ま、ホッとするのはほんの一瞬だったりしますが。しかし、完成した後も手直しがあったり、それが終わった後もアフターまで面倒を見なきゃいけません。
もう勘弁してくれえ!と叫びたくなります。
停電だ、断水だ、ガスが出ない、テレビが映らない、なんでもかんでも年中無休で対応です。
正月すらもゆっくり休むことできんのか・・・
以上が非常にざっくりとしてますが、現場監督の仕事の内容です。自分で書いておいてなんですが、なんだか大変な仕事なんだなあと思います。
現場監督の仕事とは別に、建物がどのように出来上がっていくのかについては、以下の投稿で紹介しています。
コメント
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大変面白いです。